そんな約束はしてなかった。だって双方共に出社の日。
ましてや中也さんも自分も、
言うに言われぬ事情で いきなり社外の人へは連絡できなくなるよな職務をこなしてもいて。
そういう環境なのだということへ慣れつつあったところから、
ひょこりと現れた芥川へ“中也さんは?”なんて訊いてしまいもしたのだろ。
それこそ、答えられない状況かも知れぬというに。
まま、今日はそのような様相ではなかったのだけれど。。
随分とはしゃいでいたものか、
そうまで急がなくてもと苦笑されそな級、仕事中レベルの走りようで辿り着いた建物を見上げる。
ウチへという言い回しの時は此処という“自宅”のマンションは、
さほど瀟洒な外観ではないが、エントランスロビーの落ち着いた佇まいへ踏み込むと同時、
ちょっぴり肩での呼吸になってることに気づいて恥ずかしくなる。
“うう……。/////////”
こんなじゃあ笑われちゃうなぁと頬が赤くなる。
そんなにも餓えてたんだというのが隠し切れてない。
ほんの五日ほど会えなかっただけなのにね。
メールや電話はしていたのにね。
胸元へ手を伏せてゆっくり深呼吸して、
訪問者用の、テンキーの付いたインターフォンパネルへと歩み寄る。
「…、中也さん。」
【敦か? そのまま上がって来い。】
打てば響くという間合いでの応答に、ハイといい声で返し、
それはなめらかに開いたドアへと踏み込んでゆく。
慣れた足取りで向かった上階のフラット、玄関前でもう一度チャイムを鳴らせば、
一呼吸の間合いを置いてガチャリと重いドアが開き、
ノブに手を置き、エプロン巻いたその身を伸べて、
「おう、お帰り。」
当たり前のようにそうと言い、切れ長の双眸たわめて にっかり笑う大好きな人。
さあ来いと言わんばかり、胸元開いておいでと待ち構えてる人に、こちらも全開の笑顔で返す。
「ただいまです、中也さんっ。」
◇◇
上がったフラットは香ばしい匂いがいっぱいで、
エプロン姿だったことといい、
マフィアの五代幹部殿、キッチンで腕を振るってる最中だったらしく。
汗かいてるならシャワー使え、
もうちっと、そうオーブンの頑張りが10分ほどかかるからと言われたが、
「〜〜〜〜〜っ。」
「おっと。おいおい、敦。」
しゃんとしていて頼もしい背中を捕まえて、
掻い込むよにしてしがみつく。だってだって、
「…だって五日ぶりなんだもの。///////////」
顔を上げられぬまま
恥ずかしいけどと もしょりと呟く。
薄着同士、シャツだけ隔てて届く温みが愛おしい。
堅い肩とか強い背中とか、
すぐ前まで吸ってたか、ちょっぴりたばこの香が濃い髪の匂いとか。
おいおいって肩口に顔を伏せた敦の頭を ぽふぽふと叩く手の感触とか。
意識する端からドキドキして来て、
“うわぁ〜、”
中也さんだ中也さんだ中也さんだちゅうやさんだちゅうやさんだと、
呼吸より大事なおまじないみたいに胸のうちで連呼してたら、
「とりあえず息をしろ。」
クックッとそのまま噴き出しかかったほど可笑しそうに笑って
此方の髪をツンツンと引っ張るんだ。
何で分かったんだろ、でも確かに苦しいかも。
なので、えいと思い切り息を吸い込んだら、
「〜〜〜〜〜〜。」
「こらこら、どうした。」
そのまま足元が萎えかかり、重みが増したのへ驚いたのか
慌てて振り向いて来た兄人さんが、
背ばっか高いけどひょろっとした痩躯を腕の中へと受け止めた。
「ご、ごめんなさ…。////////」
思い切りいい匂いを吸い込んだんで眩暈がしたなんて、
“言えるわけないじゃない。//////////”
ちょびっと身長差があるせいで、
はしゃいだそのまま この腕の中にすっぽりと閉じ込めることが出来ても。
色んな意味から敵わなくって、
やっぱり何かと負け負けな、年上の頼もしいお兄さん。
大丈夫かと見下ろしてきたそのまま、呆れられちゃうかなと思いきや、
「…安心しな。」
え?
「俺の方も そりゃあもうもう逢いたかったから。」
ふふーと今度は目許を柔らかく細めて、やさしく笑ってくれるところが、
あああ、やっぱり敵わない。
腕の輪をすぼめ、いい子いい子と抱きしめてくれる。
子供みたいに甘ったれたの受け止めてくれる。
「さあ、そろそろ出来上がんぞ。」
風呂は後でいいから顔と手を洗って来いと、
やっと何とか自力で立ち上がり直した小虎くんへ、
お兄さんらしく声かけて洗面所の方へと追いやったものの、
「………。」
ほれほれと肩を押した手、しばらくそのままに。
同じポーズのまま固まってること十数秒。
緩やかに頬や耳が赤くなり、
“いやいやいやいや、ないだろあれは。
何て可愛いんだ、まじ天使かよ、男だよな、男だ、うん。
あんな甘え方するか普通、純心にもほどがあんぞ。他でやってなかろうな。
青鯖に手ぇ出されてないだろな、芥川と仲いいからって構われてたら……っ。”
頼もしい手のひらで口元塞ぎ、
奇矯な声が出ぬよう堪える兄人さんだったりし。
似たような状態になってるあたり、妙なところで気が合う二人なのであった。
>>中原シェフの簡単レシピ<<
作り置きのパイ生地が余ってたのでと、
あらびきソーセージを巻いて焼いたというお手軽なスナックや、
パルミエをどっさりと用意してくれており、
勿論、チキンを封したキッシュ風のホワイトソースのパイも、主菜としてでんとテーブルに。
「え? お忙しかったんじゃあ。」
「だから、パイ生地は冷凍庫にあったんだって。」
そんな手間暇かけてねぇぞと、さらっと言うところがイマドキの男前。
春キャベツのコールスローに ポテトサラダ、
ミートボールが浮かぶトマト風味のミネストローネに、
ぷりぷりエビチリの揚げワンタン添え。
デザートは他にもお手製の氷菓が待っているとのことで、
「さあ、目一杯食えよ。」
食べ切れなかったら持って帰らせるからなと、
やや強引なシェフ殿なれど。
「いただきますっ。」
それを言うならこちらも食べ盛り。
しかも超回復などという、いくらでも燃料要りますという異能を始終発動している困った少年。
何で細いままなんだと首を傾げたくなるほどの健啖家でもあるので、
見ていて惚れ惚れするほどパクパクと美味しそうに平らげてくれる。
「このお菓子、見たことあります。」
「ああ、そうだろな。市販されてる結構有名なパイ菓子がある。」
パルミエというのは、某 源○パイみたいなハート形のミニパイのこと。
パイシートにグラニュー糖やココアなどまぶして
中央線を境に左右へジャムやカスタードクリームを中央寄りの半分ほどの広さへ薄く敷く。
両端から中央へ向けてパタンパタンと折り込んで、1センチ幅に輪切りにし、
切断面を上にして天板へ並べてオーブンで焼くだけ。
パイ生地は膨らむので間隔空けるように。
すると源○パイみたいなハート形のお菓子の完成。
「お好みにあわせて、
レーズンとかゴマあんとか 中身を変えてみるのも楽しいぞ。」
「だそうですvv」
ちゃんちゃん♪
〜 Fine 〜 18.05.17
*こっちのお二人の過ごしようも書いてみたくなりました。
ちなみに、5月17日は“お茶漬けの日”だそうです。

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